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2020年4月11日 (土)

中原中也・夜の詩コレクション11/更くる夜 内海誓一郎に

更くる夜

       内海誓一郎に 

 

毎晩々々、夜が更(ふ)けると、近所の湯屋(ゆや)の

  水汲(く)む音がきこえます。

流された残り湯が湯気(ゆげ)となって立ち、

  昔ながらの真っ黒い武蔵野の夜です。

おっとり霧も立罩(たちこ)めて

  その上に月が明るみます、

と、犬の遠吠(とおぼえ)がします。

 

その頃です、僕が囲炉裏(いろり)の前で、

  あえかな夢をみますのは。

随分(ずいぶん)……今では損(そこ)われてはいるものの

  今でもやさしい心があって、

こんな晩ではそれが徐かに呟きだすのを、

  感謝にみちて聴(き)きいるのです、

感謝にみちて聴きいるのです。

 

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)

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