中原中也・夜の詩コレクション39/我が祈り 小林秀雄に
我が祈り
小林秀雄に
神よ、私は俗人(ぞくじん)の奸策(かんさく)ともない奸策が
いかに細き糸目(いとめ)もて編(あ)みなされるかを知っております。
神よ、しかしそれがよく編みなされていればいる程、
破れる時には却(かえっ)て速(すみや)かに乱離(らんり)することを知っております。
神よ、私は人の世の事象が
いかに微細(びさい)に織(お)られるかを心理的にも知っております。
しかし私はそれらのことを、
一も知らないかの如(ごと)く生きております。
私は此所(ここ)に立っております!………
私はもはや歌おうとも叫ぼうとも、
描こうとも説明しようとも致しません!
しかし、噫(ああ)! やがてお恵みが下ります時には、
やさしくうつくしい夜の歌と
櫂歌(かいうた)とをうたおうと思っております………
一九二九、一二、一二
(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)
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