中原中也・夜の詩コレクション37/蛙 声
蛙 声
天は地を蓋(おお)い、
そして、地には偶々(たまたま)池がある。
その池で今夜一(ひ)と夜(よ)さ蛙は鳴く……
――あれは、何を鳴いてるのであろう?
その声は、空より来(きた)り、
空へと去るのであろう?
天は地を蓋い、
そして蛙声(あせい)は水面に走る。
よし此(こ)の地方(くに)が湿潤(しつじゅん)に過ぎるとしても、
疲れたる我等(われら)が心のためには、
柱は猶(なお)、余りに乾いたものと感(おも)われ、
頭は重く、肩は凝(こ)るのだ。
さて、それなのに夜が来れば蛙は鳴き、
その声は水面に走って暗雲(あんうん)に迫る。
(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)
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