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2020年5月 2日 (土)

中原中也・夜の詩コレクション32/幻 影

幻 影

 

私の頭の中には、いつの頃からか、

薄命(はくめい)そうなピエロがひとり棲(す)んでいて、

それは、紗(しゃ)の服なんかを着込んで、

そして、月光を浴びているのでした。

 

ともすると、弱々しげな手付をして、

しきりと 手真似(てまね)をするのでしたが、

その意味が、ついぞ通じたためしはなく、

あわれげな 思いをさせるばっかりでした。

 

手真似につれては、唇(くち)も動かしているのでしたが、

古い影絵でも見ているよう――

音はちっともしないのですし、

何を云(い)ってるのかは 分りませんでした。

 

しろじろと身に月光を浴び、

あやしくもあかるい霧(きり)の中で、

かすかな姿態(したい)をゆるやかに動かしながら、

眼付(めつき)ばかりはどこまでも、やさしそうなのでした。

 

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)

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