中原中也・夜の詩コレクション55/夜寒の都会
夜寒の都会
外燈に誘出(さそいだ)された長い板塀(いたべい)、
人々は影を連れて歩く。
星の子供は声をかぎりに、
ただよう靄(もや)をコロイドとする。
亡国に来て元気になった、
この洟色(はないお)の目の婦(おんな)、
今夜こそ心もない、魂もない。
舗道の上には勇ましく、
黄銅の胸像が歩いて行った。
私は沈黙から紫がかった、
数箇の苺(いちご)を受けとった。
ガリラヤの湖にしたりながら、
天子は自分の胯(また)を裂いて、
ずたずたに甘えてすべてを呪った。
(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新かなに変えてあります。)
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