中原中也・夜の詩コレクション57/浮 浪
浮 浪
私は出て来た、
街に灯がともって
電車がとおってゆく。
今夜人通も多い。
私も歩いてゆく。
もうだいぶ冬らしくなって
人の心はせわしい。なんとなく
きらびやかで淋しい。
建物の上の深い空に
霧(きり)が黙ってただよっている。
一切合切(いっさいがっさい)が昔の元気で
拵(こしらえ)えた笑(えみ)をたたえている。
食べたいものもないし
行くとこもない。
停車場の水を撒(ま)いたホームが
……恋しい。
(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新かなに変えてあります。)
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