中原中也・夜の詩コレクション41/深更
深 更
あああ、こんなに、疲れてしまった……
――しずかに、夜(よる)の、沈黙(しじま)の中に、
揺(ゆ)るとしもないカーテンの前――
煙草(たばこ)喫うより能もないのだ。
揺るとしもないカーテンの前、
過ぎにし月日の記憶も失(う)せて、
都会も眠る、この夜(よ)さ一(ひ)と夜(よ)、
我や、覚めたる……動かぬ心!
机の上なる、物々(ものもの)の影、
覚めたるわが目に、うつるは汝等(なれら)か?
我や、汝等を、見るにもあらぬに、
机の上なる、物々の影。
おもわせぶりなる、それな姿態(したい)や、
これな、かなしいわが身のはてや、
夜空は、暗く、霧(けむ)りて、高く、
時計の、音のみ、沈黙(しじま)を破り。
(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)
« 中原中也・夜の詩コレクション41/深更 | トップページ | 中原中也・夜の詩コレクション42/白紙(ブランク) »
「067中原中也・夜の歌コレクション」カテゴリの記事
- 中原中也・夜の詩コレクション118/秋の夜に、湯に浸り(2020.08.01)
- 中原中也・夜の詩コレクション117/雨が降るぞえ――病棟挽歌(2020.07.31)
- 中原中也・夜の詩コレクション116/道修山夜曲(2020.07.30)
- 中原中也・夜の詩コレクション115/夏の夜の博覧会はかなしからずや(2020.07.29)
- 中原中也・夜の詩コレクション114/暗い公園(2020.07.28)
« 中原中也・夜の詩コレクション41/深更 | トップページ | 中原中也・夜の詩コレクション42/白紙(ブランク) »
コメント