中原中也・夜の詩コレクション81/疲れやつれた美しい顔
疲れやつれた美しい顔
疲れやつれた美しい顔よ、
私はおまえを愛す。
そうあるべきがよかったかも知れない多くの元気な顔たちの中に、
私は容易におまえを見付ける。
それはもう、疲れしぼみ、
悔とさびしい微笑としか持ってはおらぬけれど、
それは此(こ)の世の親しみのかずかずが、
縺(もつ)れ合い、香となって蘢(こも)る壺(つぼ)なんだ。
そこに此の世の喜びの話や悲しみの話は、
彼のためには大きすぎる声で語られ、
彼の瞳はうるみ、
語り手は去ってゆく。
彼が残るのは、十分諦(あきら)めてだ。
だが諦めとは思わないでだ。
その時だ、その壺が花を開く、
その花は、夜の部屋にみる、三色菫(さんしきすみれ)だ。
(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新かなに変えてあります。)
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