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2020年6月24日 (水)

中原中也・夜の詩コレクション81/疲れやつれた美しい顔

疲れやつれた美しい顔

 

疲れやつれた美しい顔よ、

私はおまえを愛す。

そうあるべきがよかったかも知れない多くの元気な顔たちの中に、

私は容易におまえを見付ける。

 

それはもう、疲れしぼみ、

悔とさびしい微笑としか持ってはおらぬけれど、

それは此(こ)の世の親しみのかずかずが、

縺(もつ)れ合い、香となって蘢(こも)る壺(つぼ)なんだ。

 

そこに此の世の喜びの話や悲しみの話は、

彼のためには大きすぎる声で語られ、

彼の瞳はうるみ、

語り手は去ってゆく。

 

彼が残るのは、十分諦(あきら)めてだ。

だが諦めとは思わないでだ。

その時だ、その壺が花を開く、

その花は、夜の部屋にみる、三色菫(さんしきすみれ)だ。

 

(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新かなに変えてあります。)

 

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