中原中也・夜の詩コレクション67/(風のたよりに、沖のこと 聞けば)
(風のたよりに、沖のこと 聞けば)
風のたよりに、沖のこと 聞けば
今夜は、可(か)なり漁(と)れそう、ゆっくり今頃夕飯食べてる。
そろそろ夜焚(よだき)の、灯ともす船もある
今は凪(なぎ)だが、夜中になれば少し荒れよう。
しらじらと夜のあけそめに、
漁船らは、沖を出発、
帰ってきた、港の朝は、
まぼろしの、帆柱だらけ
雨風に、しらんだ船側(ふなばた)、
干されたる大いな網よ。
せわしげな、女の声々、
ああ、これでは、
人生は今も聞こゆる潮騒(しおさい)のごと、
ねぼけづらなる潮騒のごと、
うらがなしく、あっけない。
しかすがに、みよ、猟師の筋骨、
彼等は今晩も沖に出てゆく。
そのために昼間は寝る。
(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新かなに変えてあります。)
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