中原中也・夜の詩コレクション61/幼年囚の歌
幼年囚の歌
1
こんなに酷(ひど)く後悔する自分を、
それでも人は、苛(いじ)めなければならないのか?
でもそれは、苛めるわけではないのか?
そうせざるを得ないというのか?
人よ、君達は私の弱さを知らなさすぎる。
夜も眠れずに、自らを嘆くこの男を、
君達は知らないのだ、嘆きのために、
果物にもパンにももう飽かしめられたこの男を。
君達は知らないのだ、神のほか、地上にはもうよるべのない、
冬の夜は夜空のもとに目も耳もないこの悲しみを。
それにしてもと私は思う、
この明瞭なことが、どうして君達には見えないのだろう?
どうしてだ? どうしてだ?
君達は、自疑してるのだと私は思う……
2
今夜(こよ)はまた、かくて呻吟(しんぎん)するものを、
明日の日は、また罪犯す吾なるぞ。
かくて幾たび幾そたび繰返すとも悟らぬは、
いかなる呪いのためならん。
かくは烈しく呻吟し
かくは間なくし罪つくる。
繰返せども返せども、
つねに新し、たびたびに。
かくは烈しく呻吟し、
などてはまたも繰返す?
かくはたびたび繰返し、
などては進みもなきものか?
われとわが身にあらそえば
人の喜び、悲しみも、
ゼラチン透かし見るごとく
かなしくもまたおどけたり。
(一九二九・一・四)
(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新かなに変えてあります。)
« 中原中也・夜の詩コレクション60/秋の夜 | トップページ | 中原中也・夜の詩コレクション62/寒い夜の自我像 »
「067中原中也・夜の歌コレクション」カテゴリの記事
- 中原中也・夜の詩コレクション118/秋の夜に、湯に浸り(2020.08.01)
- 中原中也・夜の詩コレクション117/雨が降るぞえ――病棟挽歌(2020.07.31)
- 中原中也・夜の詩コレクション116/道修山夜曲(2020.07.30)
- 中原中也・夜の詩コレクション115/夏の夜の博覧会はかなしからずや(2020.07.29)
- 中原中也・夜の詩コレクション114/暗い公園(2020.07.28)
« 中原中也・夜の詩コレクション60/秋の夜 | トップページ | 中原中也・夜の詩コレクション62/寒い夜の自我像 »
コメント