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2020年6月 4日 (木)

中原中也・夜の詩コレクション61/幼年囚の歌

幼年囚の歌

 

 

こんなに酷(ひど)く後悔する自分を、

それでも人は、苛(いじ)めなければならないのか?

でもそれは、苛めるわけではないのか?

そうせざるを得ないというのか?

 

人よ、君達は私の弱さを知らなさすぎる。

夜も眠れずに、自らを嘆くこの男を、

君達は知らないのだ、嘆きのために、

果物にもパンにももう飽かしめられたこの男を。

 

君達は知らないのだ、神のほか、地上にはもうよるべのない、

冬の夜は夜空のもとに目も耳もないこの悲しみを。

それにしてもと私は思う、

 

この明瞭なことが、どうして君達には見えないのだろう?

どうしてだ? どうしてだ?

君達は、自疑してるのだと私は思う……

 

 

今夜(こよ)はまた、かくて呻吟(しんぎん)するものを、

明日の日は、また罪犯す吾なるぞ。

かくて幾たび幾そたび繰返すとも悟らぬは、

いかなる呪いのためならん。

 

かくは烈しく呻吟し

かくは間なくし罪つくる。

繰返せども返せども、

つねに新し、たびたびに。

 

かくは烈しく呻吟し、

などてはまたも繰返す?

かくはたびたび繰返し、

などては進みもなきものか?

 

われとわが身にあらそえば

人の喜び、悲しみも、

ゼラチン透かし見るごとく

かなしくもまたおどけたり。

 

               (一九二九・一・四)

 

(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新かなに変えてあります。)

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