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2020年6月27日 (土)

中原中也・夜の詩コレクション84/お会式の夜

お会式の夜

 

十月の十二日、池上の本門寺、

東京はその夜、電車の終夜運転、

来る年も、来る年も、私はその夜を歩きとおす、

太鼓の音の、絶えないその夜を。

 

来る年にも、来る年にも、その夜はえてして風が吹く。

吐(は)く息は、一年の、その夜頃から白くなる。

遠くや近くで、太鼓の音は鳴っていて、

頭上に、月は、あらわれている。

 

その時だ 僕がなんということはなく

落漠(らくばく)たる自分の過去をおもいみるのは

まとめてみようというのではなく、

吹く風と、月の光に仄(ほの)かな自分を思んみるのは。

 

   思えば僕も年をとった。

   辛いことであった。

   それだけのことであった。

    ――夜が明けたら家に帰って寝るまでのこと。

 

十月の十二日、池上の本門寺、

東京はその夜、電車の終夜運転、

来る年も、来る年も、私はその夜を歩きとおす、

太鼓の音の、絶えないその夜。

(一九三二・一〇・一五)

 

(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新かなに変えてあります。)

 

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