中原中也・夜の詩コレクション76/コキューの憶い出
コキューの憶い出
その夜私は、コンテで以(もっ)て自我像を画(か)いた
風の吹いてるお会式(えしき)の夜でした
打叩(うちたた)く太鼓の音は風に消え、
私の机の上ばかり、あかあかと明り、
女はどこで、何を話していたかは知る由(よし)もない
私の肖顏(にがお)は、コンテに汚れ、
その上に雨でもバラつこうものなら、
まこと傑作な自我像は浮び、
軋(きし)りゆく、終夜電車は、
悲しみの余裕を奪い、
あかあかと、あかあかと私の画用紙の上は、
けれども悲しい私の肖顏が浮んでた。
(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新かなに変えてあります。)
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