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2020年6月17日 (水)

中原中也・夜の詩コレクション74/(ポロリ、ポロリと死んでゆく)

(ポロリ、ポロリと死んでゆく)

 

                         俺の全身(ごたい)よ、雨に濡れ、

                         富士の裾野(すその)に倒れたれ

                                    読人不詳

 

ポロリ、ポロリと死んでゆく。

みんな別れてしまうのだ。

呼んだって、帰らない。

      なにしろ、此(こ)の世とあの世とだから叶(かな)わない。

 

今夜(いま)にして、僕はやっとこ覚(さと)るのだ、

白々しい自分であったと。

そしてもう、むやみやたらにやりきれぬ、

      (あの世からでも、僕から奪えるものでもあったら奪ってくれ。

 

それにしてもが過ぐる日は、なんと浮わついていたことだ。

あますなきみじめな気持である時も

随分(ずいぶん)いい気でいたもんだ。

      (おまえの訃報(ふほう)に遇(あ)うまでを、浮かれていたとはどうもはや。

 

風が吹く、

あの世も風は吹いてるか?

熱にほてったその頬(ほお)に、風をうけ、

正直無比な目で以(もっ)て

おまえは私に話したがっているのかも知れない……

 

——その夜、私は目を覚ます。

障子(しょうじ)は破れ、風は吹き、

まるでこれでは戸外(そと)に寝ているも同様だ。

 

それでも俺はかまわない。

それでも俺はかまわない。

     どうなったってかまわない。

なんで文句を云(い)うものか……

 

(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新かなに変えてあります。)

 

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