中原中也・夜の詩コレクション74/(ポロリ、ポロリと死んでゆく)
(ポロリ、ポロリと死んでゆく)
俺の全身(ごたい)よ、雨に濡れ、
富士の裾野(すその)に倒れたれ
読人不詳
ポロリ、ポロリと死んでゆく。
みんな別れてしまうのだ。
呼んだって、帰らない。
なにしろ、此(こ)の世とあの世とだから叶(かな)わない。
今夜(いま)にして、僕はやっとこ覚(さと)るのだ、
白々しい自分であったと。
そしてもう、むやみやたらにやりきれぬ、
(あの世からでも、僕から奪えるものでもあったら奪ってくれ。
それにしてもが過ぐる日は、なんと浮わついていたことだ。
あますなきみじめな気持である時も
随分(ずいぶん)いい気でいたもんだ。
(おまえの訃報(ふほう)に遇(あ)うまでを、浮かれていたとはどうもはや。
風が吹く、
あの世も風は吹いてるか?
熱にほてったその頬(ほお)に、風をうけ、
正直無比な目で以(もっ)て
おまえは私に話したがっているのかも知れない……
——その夜、私は目を覚ます。
障子(しょうじ)は破れ、風は吹き、
まるでこれでは戸外(そと)に寝ているも同様だ。
それでも俺はかまわない。
それでも俺はかまわない。
どうなったってかまわない。
なんで文句を云(い)うものか……
(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新かなに変えてあります。)
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