中原中也・夜の詩コレクション78/(宵に寝て、秋の夜中に目が覚めて)
(宵に寝て、秋の夜中に目が覚めて)
宵(よい)に寝て、秋の夜中に目が覚めて
汽車の汽笛の音(ね)を聞いた。
三富朽葉(くちば)よ、いまいずこ、
明治時代よ、人力も
今はすたれて瓦斯燈(ガスとう)は
記憶の彼方(かなた)に明滅す。
宵に寝て、秋の夜中に目が覚めて
汽車の汽笛の音を聞いた。
亡き明治ではあるけれど
豆電球をツトとぼし
秋の夜中に天井を
みれば明治も甦る。
ああ甦れ、甦れ、
今宵故人が風貌(ふうぼう)の
げになつかしいなつかしい。
死んだ明治も甦れ。
宵に寝て、秋の夜中に目が覚めて
汽車の汽笛の音を聞いた。
(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新かなに変えてあります。)
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