中原中也・夜の詩コレクション88/(蛙等は月を見ない)
(蛙等は月を見ない)
蛙等は月を見ない
恐らく月の存在を知らない
彼等(かれら)は彼等同志暗い沼の上で
蛙同志いっせいに鳴いている。
月は彼等を知らない
恐らく彼等の存在を思ってみたこともない
月は緞子(どんす)の着物を着て
姿勢を正し、月は長嘯(ちょうしょう)に忙がしい。
月は雲にかくれ、月は雲をわけてあらわれ、
雲と雲とは離れ、雲と雲とは近づくものを、
僕はいる、此処(ここ)にいるのを、彼等は、
いっせいに、蛙等は蛙同志で鳴いている。
(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新かなに変えてあります。)
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