中原中也・夜の詩コレクション69/夜空と酒場
夜空と酒場
夜の空は、広大であった。
その下に一軒の酒場があった。
空では星が閃(きら)めいていた。
酒場では女が、馬鹿笑いしていた。
夜風は無情な、大浪(おおなみ)のようであった。
酒場の明りは、外に洩(も)れていた。
私は酒場に、這入(はい)って行った。
おそらく私は、馬鹿面(ばかづら)さげていた。
だんだん酒は、まわっていった。
けれども私は、醉いきれなかった。
私は私の愚劣を思った。
けれどもどうさえ、仕方はなかった。
夜空は大きく、星もあった。
夜風は無情な、波浪(はろう)に似ていた。
(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新かなに変えてあります。)
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