中原中也・夜の詩コレクション107/大島行葵丸にて ――夜十時の出帆
大島行葵丸にて
――夜十時の出帆
夜の海より僕(ぼか)唾(つば)吐いた
ポイ と音(おと)して唾とんでった
瞬間(しばし)浪間に唾白かったが
じきに忽(たちま)ち見えなくなった
観音岬に燈台はひかり
ぐるりぐるりと射光(ひかり)は廻(まわ)った
僕はゆるりと星空見上げた
急に吾子(こども)が思い出された
さだめし無事には暮らしちゃいようが
凡(およ)そ理性の判ずる限りで
無事でいるとは思ったけれど
それでいてさえ気になった
(一九三五・四・二四)
(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新かなに変えてあります。)
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