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2020年7月21日 (火)

中原中也・夜の詩コレクション107/大島行葵丸にて ――夜十時の出帆

大島行葵丸にて

      ――夜十時の出帆

 

 夜の海より僕(ぼか)唾(つば)吐いた

 ポイ と音(おと)して唾とんでった

 瞬間(しばし)浪間に唾白かったが

 じきに忽(たちま)ち見えなくなった

 

観音岬に燈台はひかり

ぐるりぐるりと射光(ひかり)は廻(まわ)った

僕はゆるりと星空見上げた

急に吾子(こども)が思い出された

 

 さだめし無事には暮らしちゃいようが

 凡(およ)そ理性の判ずる限りで

 無事でいるとは思ったけれど

 それでいてさえ気になった

 

               (一九三五・四・二四)

 

(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新かなに変えてあります。)

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