中原中也・夜の詩コレクション114/暗い公園
暗い公園
雨を含んだ暗い空の中に
大きいポプラは聳(そそ)り立ち、
その天頂(てっぺん)は殆(ほと)んど空に消え入っていた。
六月の宵(よい)、風暖く、
公園の中に人気(ひとけ)はなかった。
私はその日、なお少年であった。
ポプラは暗い空に聳り立ち、
その黒々と見える葉は風にハタハタと鳴っていた。
仰ぐにつけても、私の胸に、希望は鳴った。
今宵も私は故郷(ふるさと)の、その樹の下に立っている。
其(そ)の後十年、その樹にも私にも、
お話する程の変りはない。
けれど、ああ、何か、何か……変ったと思っている。
(一九三六・一一・一七)
(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新かなに変えてあります。)
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