中原中也・夜の詩コレクション102/星とピエロ
星とピエロ
何、あれはな、空に吊るした銀紙じゃよ
こう、ボール紙を剪(き)って、それに銀紙を張る、
それを綱(あみ)か何かで、空に吊るし上げる、
するとそれが夜になって、空の奥であのように
光るのじゃ。分ったか、さもなけりゃ空にあんあものはないのじゃ
そりゃ学者共は、地球のほかにも地球があるなぞというが
そんなことはみんなウソじゃ、銀河系なぞというのもあれは
女共(おなごども)の帯に銀紙を擦(す)り付けたものに過ぎないのじゃ
ぞろぞろと、だらしもない、遠くの方じゃからええようなものの
じゃによって、俺(わし)なざあ、遠くの方はてんきりみんじゃて
(一九三四・一二・一六)
見ればこそ腹も立つ、腹が立てば怒りとうなるわい
それを怒らいでジッと我慢しておれば、神秘だのとも云いたくなる
もともと神秘だのと云う連中(やつ)は、例の八ッ当りも出来ぬ弱虫じゃで
誰怒るすじもないとて、あんまり仕末(しまつ)がよすぎる程の輩(やから)どもが
あんなこと発明をしよったのじゃわい、分ったろう
分らなければまだ教えてくれる、空の星が銀紙じゃないというても
銀でないものが銀のように光りはせぬ、青光りがするってか
そりゃ青光りもするじゃろう、銀紙じゃから喃(のう)
向きによっては青光りすることもあるじゃ、いや遠いってか
遠いには正に遠いいが、そりゃ吊し上げる時綱を途方ものう長うしたからのことじゃ
(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新かなに変えてあります。)
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