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2020年7月27日 (月)

中原中也・夜の詩コレクション113/断 片

中原中也・夜の詩コレクション113/断 片

 

断 片

 

(人と話が合うも合わぬも

所詮は血液型の問題ですよ)?……

 

恋人よ! たとえ私がどのように今晩おまえを思っていようと、また、おまえが私をどのように思っていようと、百年の後には思いばかりか、肉体さえもが影をもとどめず、そして、冬の夜(よる)には、やっぱり風が、煙突に咆(ほ)えるだろう……

おまえも私も、その時それを耳にすべくもないのだし……

 

そう思うと私は淋しくてたまらぬ

そう思うと私は淋しくてたまらぬ

 

勿論(もちろん)このような思いをすることが平常(いつも)ではないけれど、またこんなことを思ってみたところでどうなるものでもないとは思うけど、時々こうした淋しさは訪れて来て、もうどうしようもなくなるのだ……

 

(人と話が合うも合わぬも

所詮は血液型の問題ですよ)?……

 

そう云ってけろけろしている人はしてるもいい……

そう云ってけろけろしている人はしてるもいい……

 

人と話が合うも合わぬも、所詮は血液型の問題であって、だから合う人と合えばいい合わぬ人とは好加減(いいかげん)にしてればいい、と云ってけろけろ出来ればなんといいこったろう……

 

恋人よ! 今宵(こよい)煙突に風は咆(ほ)え、

僕は灯影(ほかげ)に坐っています

そして、考えたってしようのないことばかりが考えられて

耳ゴーと鳴って、柚子酸(ゆずす)ッぱいのです

 

そして、僕の唱える呪文(?)ときたら

笑っちゃ不可(いけ)ない、こんなものです

ラリルレロ、カキクケコ

ラリルレロ、カキクケコ

 

現にこういっている今から十年の前には、

あの男もいたしあの女もいた

今もう冥土に行ってしまって

その時それを悲しんだその母親も冥土に行った

もう十年にもなるからは

冥土にも相当お馴れであろうと

冗談さえ云いたい程だが

とてもそれはそうはいかぬ

十二年前の恰度(ちょうど)今夜

その男と火鉢を囲んで煙草を吸っていた

その煙草が今夜は私独りで吸っているゴールデンバットで、

ゴールデンバットと私とは猶(なお)存続してるに

あの男だけいないというのだから不思議でたまらぬ

勿論(もちろん)あの男が埋葬されたということは知ってるし

とまれ僕の気は慥(たし)かなんだ

だが、気が慥かということがまた考えようによっては、たまらないくらい悲しいことで

気が慥かでさえなかったならば、尠(すくな)くとも、僕程に気が慥かでさえなかったならば、こうまざまざとあの男をだって今夜此処(ここ)で思い出すわけはないのだし、思い出して、妙な気持(然り、妙な気持、だってもう、悲しい気持なぞということは通り越している)にならないでもすみそうだ

 

そして、

(人と話が合うも合わぬも

所詮は血液型の問題ですよ)と云って

僕も、万事都合ということだけを念頭に置いて

考えたって益にもならない、こんなことなぞを考えはしないで、尠くも今在るよりは裕福になっていたでもあろうと……

 

(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新かなに変えてあります。)

 

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