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2020年7月22日 (水)

中原中也・夜の詩コレクション108/桑名の駅

桑名の駅

 

桑名の夜は暗かった

蛙がコロコロ鳴いていた

夜更の駅には駅長が

綺麗(きれい)な砂利を敷き詰めた

プラットホームに只(ただ)独り

ランプを持って立っていた

 

桑名の夜は暗かった

蛙がコロコロ泣いていた

焼蛤貝(やきはまぐり)の桑名とは

此処(ここ)のことかと思ったから

駅長さんに訊(たず)ねたら

そうだと云って笑ってた

 

桑名の夜は暗かった

蛙がコロコロ鳴いていた

大雨の、霽(あが)ったばかりのその夜(よる)は

風もなければ暗かった

 

               (一九三五・八・一二)

               「此の夜、上京の途なりしが、京都大阪

               間の不通のため、臨時関西線を運転す」

 

(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新かなに変えてあります。)

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