中原中也・夜の詩コレクション108/桑名の駅
桑名の駅
桑名の夜は暗かった
蛙がコロコロ鳴いていた
夜更の駅には駅長が
綺麗(きれい)な砂利を敷き詰めた
プラットホームに只(ただ)独り
ランプを持って立っていた
桑名の夜は暗かった
蛙がコロコロ泣いていた
焼蛤貝(やきはまぐり)の桑名とは
此処(ここ)のことかと思ったから
駅長さんに訊(たず)ねたら
そうだと云って笑ってた
桑名の夜は暗かった
蛙がコロコロ鳴いていた
大雨の、霽(あが)ったばかりのその夜(よる)は
風もなければ暗かった
(一九三五・八・一二)
「此の夜、上京の途なりしが、京都大阪
間の不通のため、臨時関西線を運転す」
(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新かなに変えてあります。)
« 中原中也・夜の詩コレクション107/大島行葵丸にて ――夜十時の出帆 | トップページ | 中原中也・夜の詩コレクション109/雲った秋 »
「067中原中也・夜の歌コレクション」カテゴリの記事
- 中原中也・夜の詩コレクション118/秋の夜に、湯に浸り(2020.08.01)
- 中原中也・夜の詩コレクション117/雨が降るぞえ――病棟挽歌(2020.07.31)
- 中原中也・夜の詩コレクション116/道修山夜曲(2020.07.30)
- 中原中也・夜の詩コレクション115/夏の夜の博覧会はかなしからずや(2020.07.29)
- 中原中也・夜の詩コレクション114/暗い公園(2020.07.28)
« 中原中也・夜の詩コレクション107/大島行葵丸にて ――夜十時の出帆 | トップページ | 中原中也・夜の詩コレクション109/雲った秋 »
コメント