中原中也・夜の詩コレクション118/秋の夜に、湯に浸り
秋の夜に、湯に浸り
秋の夜に、独りで湯に這入(はい)ることは、
淋しいじゃないか。
秋の夜に、人と湯に這入ることも亦、
淋しいじゃないか。
話の駒が合ったりすれば、
その時は楽しくもあろう
然(しか)しそれというも、何か大事なことを
わきへ置いといてのことのようには思われないか?
――秋の夜に湯に這入るには……
独りですべきか、人とすべきか?
所詮(しょせん)は何も、
決ることではあるまいぞ。
さればいっそ、潜(もぐ)って死にやれ!
それとも汝、熱中事を持て!
※ ※
※
四行詩
おまえはもう静かな部屋に帰るがよい。
煥発(かんぱつ)する都会の夜々の燈火(ともしび)を後(あと)に、
おまえはもう、郊外の道を辿(たど)るがよい。
そして心の呟(つぶや)きを、ゆっくりと聴くがよい。
(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新かなに変えてあります。)
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