中原中也・夜の詩コレクション117/雨が降るぞえ――病棟挽歌
雨が降るぞえ
――病棟挽歌
雨が、降るぞえ、雨が、降る。
今宵は、雨が、降るぞえ、な。
俺はこうして、病院に、
しがねえ、暮しをしては、いる。
雨が、降るぞえ、雨が、降る。
今宵は、雨が、降るぞえ、な。
たんたら、らららら、らららら、ら、
今宵は、雨が、降るぞえ、な。
人の、声さえ、もうしない、
まっくらくらの、冬の、宵。
隣りの、牛も、もう寝たか、
ちっとも、藁(わら)のさ、音もせぬ。
と、何号かの病室で、
硝子戸(ガラスど)、開ける、音が、する。
空気を、換えると、いうじゃんか、
それとも、庭でも、見るじゃんか。
いや、そんなこと、分るけえ。
いずれ、侘(わび)しい、患者の、こと、
ただ、気まぐれと、いわば気まぐれ、
庭でも、見ると、いわばいうまで。
たんたら、らららら、雨が、降る。
たんたら、らららら、雨が、降る。
牛も、寝たよな、病院の、宵、
たんたら、らららら、雨が、降る。
(了)
(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新かなに変えてあります。)
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