中原中也・夜の詩コレクション110/夜半の嵐
夜半の嵐
松吹く風よ、寒い夜(よ)の
われや憂き世にながらえて
あどけなき、吾子(あこ)をしみればせぐくまる
おもいをするよ、今日このごろ。
人のなさけの冷たくて、
真(しん)はまことに響きなく……
松吹く風よ、寒い夜の
汝(なれ)より悲しきものはなし。
酔覚(よいざ)めの、寝覚めかなしくまずきこゆ
汝より悲しきものはなし。
口渇くとて起出でて
水をのみ、渇きとまるとみるほどに
吹き寄する風よ、寒い夜の
喀痰(かくたん)すれば唇(くち)寒く
また床(とこ)に入り耳にきく
夜半の嵐の、かなしさよ……
それ、死の期(とき)もかからまし
(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新かなに変えてあります。)
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