ミツバチの羽音の奥底から湧き起る悲しみの旋律……。やがて、光満ちるときが訪れる。
ミツバチのささやき
1972年
スペイン
ビクトル・エリセ原案・脚本・監督。アナ・トレント、イザベル・テリェリア、フェルナンド・フェルナン・ゴメス
こういう映画をぼくは映画と呼びたい。こういう映画が好きである。無駄のない画面、巧みな展開、詩情あふれる映像、見終えたものに問いが残される物語--100枚程度の純文学を読んだようなピュアで深い感動が残る。それは、単なるエンタテインメントなのではない。スペイン内戦という重々しいテーマを扱っている。
スペイン内戦は、ビクトル・エリセにとって、表現行為の根源に横たわる原基のようなものだろう。単なる題材を超えたもの。それゆえに表現し、それ以外のもののために表現する意味のない。そのために表現し、それ以外のもののために表現する意味を持たない。しかし、それを表現する方法は、それをそのまま指し示すのではなく、あたかも影のような存在として露わにするのである。こうして、画面に緊張がみなぎる。どんなに些細な茶飯事であっても、その影を帯びる。ミツバチの羽音にさえ、スペイン内戦が映し出されるのである。それがもたらした悲しみとどのように向かい合えばよいのか、その問いを問い、それに答えようともしている映画なのである。
(2000.3.12記)
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