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2020年8月18日 (火)

その2 偽夫婦を装った二人が、いつしか共感し、ついに結ばれてしまう

コンフィデンス 信頼

1980

ハンガリー

 

監督 イシュトヴァン・サボー(Istvan Szabo)、原作エリカ・サント 、脚本イシュトヴァン・サボー、エリカ・サント 、撮影ラホス・コルタイ。出演イルディコ・バンシャーギー、ペーター・アンドライ

日本語字幕 竹松圭子

 

「ハンガリアン」(ゾルタン・ファーブリ監督)の3年後の1980年に製作されたのが、イシュトバン・サボー監督の「コンフィデンス 信頼」である。

 

サボーという名は、ハンガリー人によくあるようだが、このサボーは、1956年のハンガリー動乱以後に活躍しはじめる一群の文学者・作家たちの一人として名高い、あのイシュトバン・サボーその人であろうか。

 

「コンフィデンス 信頼」は、俗に言うと戦時下の不倫ということになってしまうが、わかりやすく言えばそう言ってもよい、というテーマを描いている。

 

ドイツ=ナチスの追っ手から逃げた夫と離れ離れになった主人公の女性は、夫のレジスタンスの仲間の助けを得て、ハンガリー人老夫婦の家に寄宿している男(やはりレジスタンスである)の妻を装って、一緒に暮らす。この男にも、離れ離れになっている妻がいる。偽夫婦を装った二人は、突然、訪れた境遇から諍(いさか)い、争って暮らすうちに、いつしか共感し、ついに結ばれてしまう、という、ここまでは、よくありそうなストーリーである。

 

 

「兄さんという人が帰って来たよ」と寄宿先の老オーナーが言い、次の瞬間、女は夫と抱擁し、こちらに顔を向けたまま、何をかに思いを巡らせる。アップの顔。止めどない涙が頬を伝う。偽の「夫」が呼ぶ声が、女の頭の中を飛び交っている――

 

「コンフィデンス 信頼」(イシュトバン・サボー監督)のエンディングである。離れ離れになっていた夫が、夫婦を装って暮らしている老夫婦の家を訪れたのは、ナチスの敗退が進んでいるからだ。レジスタンスの一員である警察官パルは、市街地での反ナチ派による残虐行為を目撃し、憤激、絶望のあまり、地下活動から身をひき、二人の前から行方をくらます。

 

戦争からの解放が迫っているさなか、偽装した「夫婦」関係は本物化し、二人は愛しあいはじめ、肉体関係をもった。そこへ、女の本物の夫が現われるのである。女が見せる涙は、何を意味しているのだろう。それは、女でなければ、理解の届かぬことだから立ち入れないし、立ち入らない。

 

エンディングのこのシーンには、しかし、どこかしら、ユーモアが感じられるのである。二人の男、一人の女それぞれの心のうちには、悲哀、絶望、無念さが渦巻いていることは間違いない。しかし、それらを俯瞰している映画監督の眼差しには、「あっ、夫が帰って来ちゃった」と、自ら物語を作ったにしては、距離を置いたような、乾いたユーモアがある感じなのである。

 

これは、「ハンガリアン」の、あの「やぶれかぶれ」の男たちの心情に似ている。悲劇的な現実を繰り返し繰り返し蒙(こうむ)ってきたにかかわらず、その上、解放され帰郷したその日に召集令状が届き、やけくそになって肩を組んで国歌を合唱し、ヨロヨロと、しかし果敢に召集列車に乗り込んでいく、ハンガリー男たちへの励ましに似た眼差しである。

 

二人の男(夫と「夫」)に愛され、二人の男(夫と「夫」)を愛した女。よく考えてみれば、これほど、幸せな女はいない、と作品は声援を送っている。そう解釈できなくもない映画である。

2002.12.21 

 

現在、ロードショー公開中の「太陽の雫」で、イシュトバン・サボー監督は、あるハンガリー人家族の3世代にわたる物語を大河小説風に映画化している。ハリウッドに招かれて撮った第1作だ。

 

「コンフィデンス」を撮ったイシュトバン・サボーは、「メフィスト」(1981年)、「ハヌッセン」(1988年)を監督しているから、「太陽の雫」と合わせ、その映画手法や考え方、「眼差し」といったものの全体像が見えはじめる。

2002.12.22 

 

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