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« 指の一本くらい失うような愛を選び取りなさい | トップページ | その一瞬、二人は目を合わせる。ボニーは、クライドは、何を、その一瞬、お互いの眼差しの中に見たであろうか。 »

2020年9月24日 (木)

映像であるゆえに、個人の心理の深みだけでなく、複数の心理関係が同時的にとらえられ、脚本も見事というほかになく、この関係を表現した

鳩の翼
1997
イギリス

イアン・ソフトリー監督、ヘンリー・ジェームス原作、ホセイン・アミニ脚本、エド・シアーマー音楽。
ヘレナ・ボナム・カーター、ライナス・ローチ、アリソン・エリオット、シャーロット・ランプリング

ヘンリー・ジェームスの原作がもつ心理描写、というより心理関係描写が、見事に、映像に生かされた。映像であるゆえに、個人の心理の深みだけでなく、複数の心理関係が同時的にとらえられ、脚本も見事というほかになく、この関係を表現したのである。この記事を書くまでに、3度、鑑賞したが、見る度にディテールの完成度に圧倒され、見る度に感動は深いものになっていったことを記しておきたい。

主人公ケイトが、亡き母メアリー・クロイの墓を清掃するシーンがあり、墓碑に「1866-1908」と刻まれてあることから、この物語が、第一次世界大戦前の時代、20世紀初頭の話であることがわかるが、戦争は無縁である。ロンドンの社交界に生きるケイトと新聞記者マートンの恋に、不治の病にかかった富豪のアメリカ女性ミリーがからまる恋愛心理劇としてみるのが自然であろう。

マートンは、貧しい記者であるゆえ、ケイトへの求婚を、ケイトの伯母モードに反対されている。モードの後ろ盾がなければ、父の生活は維持できず、母はモードに反抗したために失意の最期をとげたことを知るケイトは、表面、モードに従うふりをしつつ、行く末、マートンと結ばれることを画策するようなクレバーな女性だ。

マートンとの交際をしばらく断ち、モードのテリトリーで暮らしているケイトの転機は、アメリカの富豪女性ミリーとの出会いである。ケイトとミリーは、互いに、気が合い、すぐさま親しくなる。そのミリーが、マートンを見初めたときから、ケイト、ミリー、マートンの三角関係が生じ、友情、同情、嫉妬、そしてミリーの財産の行方が、ケイトとマートンの愛に、切迫した試練を与えるのである。

ケイトは、不治の病を背負い余命いくばくもないミリーがマートンを愛していることを知り、同情心と友情心から、旅行先のベニスに2人を残す。ミリーの愛は、マートンの心を撃ち、2人は結ばれるが、ミリーはマートンの愛を得た喜びの中で死んでしまう。

ロンドンに戻ったマートンをケイトが訪れるラストシーンで、ミリーが2人の愛に残した試練が描かれる。ミリーからの手紙は、マートンに財産の分与を告げるものに違いないが、ケイトは手紙を暖炉にくべてしまう。マートンをベッドに誘うケイト。セックスの後、ケイトがマートンに言う。「誓って。彼女の面影を愛さない、と」。そのマートンの脳裏を、ベニスですごしたミリーとの楽しい時間が去来している。

同情や友情から、恋人マートンをミリーに貸すが、ミリーの魅力を知っているため、マートンが本気になりはしないか、嫉妬渦巻くケイトの心理を、ケイトの心理だけにとどめず、関係の中で描くことができたのは、(小説の言葉もそうであるが)、映像表現の巧みによるものといってよい。
(2000.10.1鑑賞&記)

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