革命初期~建国直前の内部矛盾が民衆の呼吸の内にとらえられていることを知るのである。
黄色い大地
1984
中国
メモその1
「1937年9月、蒋介石は、陝、甘、寧の共産党の辺境根拠地を承認。国共合作が成立した。しかし、陝西省北部では、国民党の古い体制が残存し、人々は苦しい生活にあえいでいた。そのころ、八路軍の文芸工作隊が来て、陝西民謡の源を探そうとした。この古(いにしえ)の大地には、いつも”信天遊”の調べが流れている。」
映画「黄色い大地」(陳凱歌=チェン・カイコー監督)の冒頭に流れる字幕である。
八路軍兵士の顧青(ホーチン)が、文芸工作隊の任務で陝西省北部の貧しい村へ入り、翆巧(スイチャオ)、憨憨(ハンハン)姉弟とその父親の家に暮らし、人々から歌を聞き書きする。翆巧の中に芽生える革命(=命を変革する)への意志は、顧青の革命とのすれ違いを見せて映画は終わるが、それは男女の悲劇を感じさせない。ハンハンも、翆巧も、顧青も、革命の端緒に立った――。
長征後の毛沢東が延安に根拠地をつくり、規律ある革命を目指していたことは歴史に名だたる出来事だが、演劇家であった江青とは、すでに出会った後のことなのだろうか。識字率が30%に満たない農村工作への古謡収集は、後の文化革命へも連なっていく革命戦略の一つだ。そのようなことどもを考えつつ、1984年に作られたこの映画を見ていくと、革命初期~建国直前の内部矛盾が民衆の呼吸の内にとらえられていることを知るのである。
(2002.4.14発)
メモその2
陳凱歌(チェン・カイコー)監督作品「黄色い大地」に使われた歌は10曲を超えていたが、見ている最中も、見て後も、ずっとしっくりいかないものを感じていた。なぜ、かくも高音で甲高く歌われねばならないのか、と。中国語、ことさら中国北部地域の言語の発声法に起因することだから、あれが自然なのだ、とは考え難かったのである。
これは、白髪三千丈(はくはつさんぜんじょう)とか黄塵万丈(こうじんばんじょう)とか怒髪(どはつ)天を衝(つ)くなどの中国語の誇張法に、初めて接したときに似ている感覚である。なんと、おおげさな!と、だれしもが、これらの言葉に触れたとき感じたことであろう。
今になって思えば(と言っても、これが正鵠を射ているかどうかはわからないが)、歌は甲高いわけでもなく、白髪は三千丈以外に表現しようにない――というのが、大陸中国の自然なのではないか、ということである。誇張は誇張であっても、誇張しないことによって実態を矮小にしてしまうことがある。それでは、実態をつかんだことにならないし、表現し得ていない。そういう大いさが中国大陸的なものなのではないか、ということである。
「血涙(けつるい)をしぼる」なども、似ている。「絶叫する」などもそうだ。つまり、表意文字としての漢字には、もともと、誇張があるといってよい。誇張するくらいでないと、対象をつかまえられないのだ。
「黄色い大地」のエンディングで、翆巧が歌う歌は、地獄の底から湧きあがってきたような悲しみ」(これは日本語的形容)を表わし、しぼられた血涙そのものなのである。それは、絶叫であり、囁(ささや)くようであってはならない。囁きであっては、黄塵万丈の前に無に近い。
陳凱歌監督は、中国5000年の歴史の中に存在し続ける、中国的な様式への意志、フォルムへの意匠(デザイン)という方法を、ごく自然に使用しただけのことである。
(2002.4.16)
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