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2021年6月23日 (水)

再掲載3/2012年10月24日 (水) 「一つのメルヘン」の不可能な風景3・生きているうちに読んでおきたい名作たち

(前回からつづく)

蝶は神の使いだったのでしょうか?
そのようなことを感じさせておかしくはない
トリックかマジックか。

さらさらとさらさらと
今度は、水が流れているのでありました。

さらさらと、陽がさしている
さらさらと、音を立てている
さらさらと、水が流れている

いろはにこんぺいとう
こんぺいとうはあまい
あまいはさとう
さとうはしろい
しろいはうさぎ
うさぎははねる
はねるはばった
ばったはみどり
みどりははっぱ
はっぱはゆれる
ゆれるはおばけ
おばけはきえる
きえるはでんき
でんきはひかる
ひかるはおやじのはげあたま

昔、こんな歌を歌った記憶がありませんか?
主語と述語の述語を主語に変えて
しりとりのように歌いついでいく子どもたちの遊び――。

中原中也の「一つのメルヘン」は
この述語にあたる部分を
オノマトペ(さらさら)に固定し
ここへ戻っては新たに生まれるイメージを繋いで作られている。
そう考えると分かりやすいかもしれません。

こうして
オノマトペの繰り返しが基調になって
安定したリズムとメロディーとハーモニーを生みます。
さらさらとするものの主体が変化するために
単調さは少しもなく
かえってスリルとサスペンスが保たれます。

さらさらとの使い方も

さらさらと、と単独のもの

さらさらと、
さらさらと、と改行をはさんで2行に分けたもの

さらさらと、さらさらと、と1行の中に繰り返すものの3種類あります。
この使い分けによって
絶妙なリズムをとっているのです。

詩人は、これらの風景を
遠くでもなく近くでもない
ほどよい距離から眺め
ナレーターの役割をも演じています。

「でしたいました」のやさしい口調が
静かな秋の夜を語ります。

そして今、川の水は流れに流れ
次第に水かさを増してゆく感じですが
コンコンともしないで
さらさらと、さらさらとと静かに流れ続けます。

(つづく)

一つのメルヘン
 
秋の夜は、はるかの彼方(かなた)に、
小石ばかりの、河原があって、
それに陽は、さらさらと
さらさらと射しているのでありました。

陽といっても、まるで硅石(けいせき)か何かのようで、
非常な個体の粉末のようで、
さればこそ、さらさらと
かすかな音を立ててもいるのでした。

さて小石の上に、今しも一つの蝶がとまり、
淡い、それでいてくっきりとした
影を落としているのでした。

やがてその蝶がみえなくなると、いつのまにか、
今迄流れてもいなかった川床に、水は
さらさらと、さらさらと流れているのでありました……

(※「新編中原中也全集」より。新字・新かな表記にしてあります。編者。)

歴史的表記の原詩も掲出しておきます。

 一つのメルヘン

秋の夜は、はるかの彼方(かなた)に、
小石ばかりの、河原があつて、
それに陽は、さらさらと
さらさらと射してゐるのでありました。

陽といつても、まるで硅石(けいせき)か何かのやうで、
非常な個体の粉末のやうで、
さればこそ、さらさらと
かすかな音を立ててもゐるのでした。

さて小石の上に、今しも一つの蝶がとまり、
淡い、それでゐてくつきりとした
影を落としてゐるのでした。

やがてその蝶がみえなくなると、いつのまにか、
今迄流れてもゐなかつた川床に、水は
さらさらと、さらさらと流れてゐるのでありました……

(※「新編中原中也全集」より。)

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