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2021年6月28日 (月)

再掲載/2012年10月26日 (金) 「冬の長門峡」の二つの過去・生きているうちに読んでおきたい名作たち

叙景にはじまり叙情に転じる詩であるという角度でみると
「冬の長門峡」は
「春の日の夕暮」と同じグループの詩篇です。

しかし「転」の部分の動きが
それほどくっきりしているものではないので
そうとは見えにくいのですが
じっくり読めば「起承転結」が浮かび上がってきます。

そもそも2行6連構成の詩ですから
きっかり起承転結に当てはまりませんが
第1連が起
第2、3連が承
第4、5連が転
第6連が結
――というようなことになるでしょうか。

第1連で、長門峡の風景から起こし
第2連、第3連で、それを受(承)けて詩人が登場します。
ここまでは静かな長門峡と宿にいる詩人の叙景です。

第4連、第5連
水は、恰(あたか)も魂あるものの如く、
流れ流れてありにけり。

やがても密柑(みかん)の如き夕陽、
欄干にこぼれたり。

――で、この詩の風景の中に動きが出てきて
最終第6連
ああ! ――そのような時もありき、
寒い寒い 日なりき。

――が「結(論)」と読める詩です。

技巧も修辞(レトリック)もないような詩で
プロの読み手にも賛否両論がありますが
読み込めば読み込むほど
ハイ・ブローな技が見えてくる詩です。

(つづく)

冬の長門峡

長門峡に、水は流れてありにけり。
寒い寒い日なりき。

われは料亭にありぬ。
酒酌(く)みてありぬ。

われのほか別に、
客とてもなかりけり。

水は、恰(あたか)も魂あるものの如く、
流れ流れてありにけり。

やがても密柑(みかん)の如き夕陽、
欄干にこぼれたり。

あゝ! ――そのやうな時もありき、
寒い寒い 日なりき。

※「新編中原中也全集」より。( )で示したルビは、全集編集委員会によるものです。

「新字・新かな」表記を以下に掲出しておきます。

冬の長門峡
 
長門峡に、水は流れてありにけり。
寒い寒い日なりき。

われは料亭にありぬ。
酒酌(く)みてありぬ。

われのほか別に、
客とてもなかりけり。

水は、恰(あたか)も魂あるものの如く、
流れ流れてありにけり。

やがても密柑(みかん)の如き夕陽、
欄干にこぼれたり。

ああ! ――そのような時もありき、
寒い寒い 日なりき。

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