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2021年7月 2日 (金)

再掲載/2012年11月 2日 (金)「永訣の秋」の月光詩群・「月夜の浜辺」・生きているうちに読んでおきたい名作たち

「幻影」で
私(=詩人)の頭の中に棲んでいるピエロですが
そのピエロはいつも月光下にいます。
黙劇(パントマイム)を演じている舞台に
月光は射していなければならないものであるかのようにです。

月光(または月)は
中原中也の詩に
たびたびライト・モチーフとして現れることは
よく知られたことでしょう。

「山羊の歌」の「初期詩篇」に
「月」が「春の日の夕暮」の次に配置され
「在りし日の歌」のトップ5番目にも
同名タイトル「月」が配置されているほか
ざっと見ただけで

「山羊の歌」に
「春の夜」
「都会の夏の夜」
「失せし希望」
「更くる夜」

「在りし日の歌」に
「幼獣の歌」
「湖上」
「頑是ない歌」
「お道化うた」
「春宵感懐」
「幻影」
「月夜の浜辺」
「月の光 その一」
「月の光 その二」

――と、月(光)が現われます。

二つの自選詩集の冒頭部に置かれた「月」が
どちらも初期に属する作品であるのにくらべ
「在りし日の歌」の「永訣の秋」に収められた「月(光)の歌」は
「月の光 その一」「その二」で頂点となる一群を形づくる
晩年の作品です。

「幻影」
「月夜の浜辺」
「月の光 その一」
「月の光 その二」
――がそれです。

中原中也の名作詩が
ここに並んでいます。

(つづく)

月夜の浜辺
 
月夜の晩に、ボタンが一つ
波打際に、落ちてゐた。

それを拾つて、役立てようと
僕は思つたわけでもないが
なぜだかそれを捨てるに忍びず
僕はそれを、袂《たもと》に入れた。

月夜の晩に、ボタンが一つ
波打際に、落ちてゐた。

それを拾つて、役立てようと
僕は思つたわけでもないが
   月に向つてそれは抛《はふ》れず
   浪に向つてそれは抛れず
僕はそれを、袂に入れた。

月夜の晩に、拾つたボタンは
指先に沁《し》み、心に沁《し》みた。

月夜の晩に、拾つたボタンは
どうしてそれが、捨てられようか?
 
※「新編中原中也全集」より。《》で示したルビは、原作者本人によるものです。

「新字・新かな」表記を以下に掲出しておきます。

月夜の浜辺
 
月夜の晩に、ボタンが一つ
波打際に、落ちていた。

それを拾って、役立てようと
僕は思ったわけでもないが
なぜだかそれを捨てるに忍びず
僕はそれを、袂《たもと》に入れた。

月夜の晩に、ボタンが一つ
波打際に、落ちていた。

それを拾って、役立てようと
僕は思ったわけでもないが
   月に向ってそれは抛《ほう》れず
   浪に向ってそれは抛れず
僕はそれを、袂に入れた。

月夜の晩に、拾ったボタンは
指先に沁《し》み、心に沁《し》みた。

月夜の晩に、拾ったボタンは
どうしてそれが、捨てられようか?

 

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