カテゴリー

2024年1月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31      
無料ブログはココログ

« 再掲載/2012年12月 8日 (土) 「永訣の秋」詩のわかれ歌のわかれ・「言葉なき歌」4 | トップページ | 再掲載/2012年12月10日 (月) 「永訣の秋」詩のわかれ歌のわかれ・「言葉なき歌」6 »

2021年7月22日 (木)

再掲載/2012年12月 9日 (日) 「永訣の秋」詩のわかれ歌のわかれ・「言葉なき歌」5

(前回からつづく)

「ランボウ詩集」の「後記」の後半部は
中原中也のランボー論が展開されています。
そして少しはベルレーヌ論も混ざっています。

その中のはじめの部分の

パイヤン(異教徒)の思想だ
彼にとつて基督教とは、多分一牧歌
感性的陶酔
陶酔の全一性といふことが全ての全て
悲劇も喜劇も、恐らくは茲に発した
人類は「食ふため」には感性上のことなんか犠牲にしてゐる。ランボオの思想は、だから嫌はれはしないまでも容れられはしまい。

――などというランボー「総論」はひとまず置いておきます。

「言葉なき歌」にピタリとクロスするのは

 云換れば、ランボオの洞見したものは、結局「生の原型」といふべきもので、謂はば凡ゆる風俗凡ゆる習慣以前の生の原理であり、それを一度洞見した以上、忘れられもしないが又表現することも出来ない、恰(あたか)も在るには在るが行き道の分らなくなつた宝島の如きものである。

――と述べられた部分でしょう。

さらにつづめれば、このくだりの中の

一度洞見した以上、忘れられもしないが又表現することも出来ない、恰(あたか)も在るには在るが行き道の分らなくなつた宝島の如きもの

――という一節です。

「言葉なき歌」の「あれ」が
この一節にピンポイントで照応(クロス)しています。

「あれ」は、

かつて一度洞見したことのある(一度見抜いたことのある)
忘れようにも忘れられないし、またもう一度それを表現することもできない
存在することは確かなのだけれど「そこ」へ行く道がわからなくなった宝島のようなもの

――と同じものではありませんか!

さらにつづめて言えば
「あれ」とは「宝島」のことになります。

(つづく)

言葉なき歌
 
あれはとほいい処にあるのだけれど
おれは此処(ここ)で待つてゐなくてはならない
此処は空気もかすかで蒼く
葱(ねぎ)の根のやうに仄(ほの)かに淡《あは》い

決して急いではならない
此処で十分待つてゐなければならない
処女《むすめ》の眼《め》のやうに遥かを見遣(みや)つてはならない
たしかに此処で待つてゐればよい

それにしてもあれはとほいい彼方で夕陽にけぶつてゐた
号笛《フイトル》の音《ね》のやうに太くて繊弱だつた
けれどもその方へ駆け出してはならない
たしかに此処で待つてゐなければならない

さうすればそのうち喘(あえ)ぎも平静に復し
たしかにあすこまでゆけるに違ひない
しかしあれは煙突の煙のやうに
とほくとほく いつまでも茜(あかね)の空にたなびいてゐた
 

「新字・新かな」表記を以下に掲出しておきます。

言葉なき歌
 
あれはとおいい処にあるのだけれど
おれは此処(ここ)で待っていなくてはならない
此処は空気もかすかで蒼く
葱(ねぎ)の根のように仄(ほの)かに淡《あわ》い

決して急いではならない
此処で十分待っていなければならない
処女《むすめ》の眼(め)のように遥かを見遣(みや)ってはならない
たしかに此処で待っていればよい

それにしてもあれはとおいい彼方で夕陽にけぶっていた
号笛《フィトル》の音《ね》のように太くて繊弱だった
けれどもその方へ駆け出してはならない
たしかに此処で待っていなければならない

そうすればそのうち喘(あえ)ぎも平静に復し
たしかにあすこまでゆけるに違いない
しかしあれは煙突の煙のように
とおくとおく いつまでも茜(あかね)の空にたなびいていた

※「新編中原中也全集」より。《 》で示したルビは原作者本人、( )で示したルビは全集編集委員
会によるものです。

 

« 再掲載/2012年12月 8日 (土) 「永訣の秋」詩のわかれ歌のわかれ・「言葉なき歌」4 | トップページ | 再掲載/2012年12月10日 (月) 「永訣の秋」詩のわかれ歌のわかれ・「言葉なき歌」6 »

023再掲載/絶唱「在りし日の歌」」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« 再掲載/2012年12月 8日 (土) 「永訣の秋」詩のわかれ歌のわかれ・「言葉なき歌」4 | トップページ | 再掲載/2012年12月10日 (月) 「永訣の秋」詩のわかれ歌のわかれ・「言葉なき歌」6 »