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2021年7月 8日 (木)

再掲載/2012年11月10日 (土) 「永訣の秋」の街へのわかれ・「正午」・生きているうちに読んでおきたい名作たち

「月の光」は
お庭の隅にも芝生にも
月光が満遍(まんべん)なく降り注(そそ)いで
真昼のような「影のない世界」を歌います。

死んだ子が隠れている草叢でさへ
月の光が照っていては丸見えで
その子どもに「影がない」感じが
妙に生々しい非現実感――こんなことってあるのか!――を漂わせます。

太陽が南中し
モノの影が極小になる時刻=正午と
月光が影のない世界をつくりだす「月の光」の詩世界との連続を
中原中也が意識していたとは断言できませんが
「正午 丸ビル風景」は
「春日狂想」の前にあって
「永訣の秋」の最終詩「蛙声」へ続く位置に配置されている口語詩です。

「在りし日の歌」の末尾から3番目にあり
「月の光 その二」から4作おいて
この詩が現われます。

詩集「在りし日の歌」に
「在りし日の歌」と「永訣の秋」の章が立てられたからには
「永訣の秋」の章に格別の思いが込められたことを想像できますが
それはどのようなことだったでしょう――。

「永訣の秋」の「秋」は「秋=あき」ではなく「秋=とき」であろう

季節としての秋というより
「わかれのその時」の「とき」のニュアンスだろう

ならば
「正午 丸ビル風景」も
「わかれのとき」を刻印した詩であろう

――と、もう一度読み返してみたくなる名作の一つです。

「永訣の秋」の冒頭には
「ゆきてかへらぬ」という
「街へのわかれ」の詩がすでにあり
そこでは「京都へのわかれ」が歌われました。

「東京へのわかれ」が
この詩「正午 丸ビル風景」であるだろう

――という眼(まなざし)に沿って読んでみましょう。

(つづく)

正 午
       丸ビル風景
  
あゝ十二時のサイレンだ、サイレンだサイレンだ
ぞろぞろぞろぞろ出てくるわ、出てくるわ出てくるわ
月給取の午休(ひるやす)み、ぷらりぷらりと手を振つて
あとからあとから出てくるわ、出てくるわ出てくるわ
大きなビルの真ッ黒い、小ッちやな小ッちやな出入口
空はひろびろ薄曇り、薄曇り、埃りも少々立つてゐる
ひよんな眼付で見上げても、眼を落としても……
なんのおのれが桜かな、桜かな桜かな
あゝ十二時のサイレンだ、サイレンだサイレンだ
ぞろぞろぞろぞろ、出てくるわ、出てくるわ出てくるわ
大きなビルの真ッ黒い、小ッちやな小ッちやな出入口
空吹く風にサイレンは、響き響きて消えてゆくかな
 
※「新編中原中也全集」より。( )で示したルビは、全集編集員会によるものです。

「新字・新かな」表記を以下に掲出しておきます。

正 午
       丸ビル風景
  
ああ十二時のサイレンだ、サイレンだサイレンだ
ぞろぞろぞろぞろ出てくるわ、出てくるわ出てくるわ
月給取の午休(ひるやす)み、ぷらりぷらりと手を振って
あとからあとから出てくるわ、出てくるわ出てくるわ
大きなビルの真ッ黒い、小ッちゃな小ッちゃな出入口
空はひろびろ薄曇り、薄曇り、埃りも少々立っている
ひょんな眼付で見上げても、眼を落としても……
なんのおのれが桜かな、桜かな桜かな
ああ十二時のサイレンだ、サイレンだサイレンだ
ぞろぞろぞろぞろ、出てくるわ、出てくるわ出てくるわ
大きなビルの真ッ黒い、小ッちゃな小ッちゃな出入口
空吹く風にサイレンは、響き響きて消えてゆくかな

 

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