再掲載/2012年11月24日 (土) 「永訣の秋」女のわかれ・「あばずれ女の亭主が歌った」3・生きているうちに読んでおきたい名作たち
(前回からつづく)
「あばずれ女」と聞いただけで
アメリカン・ニューシネマ「俺たちに明日はない」のボニーを思い浮かべたり
「愛の不可能」や「愛の不毛」ならば
イタリア映画「情事」「太陽はひとりぼっち」「夜」のミケランジェロ・アントニオーニ監督作品や
フランス・ヌーベルバーグの「勝手にしやがれ」や「気狂いピエロ」を思い出したりしますが
突飛なことでしょうか――。
◇
おまえはおれを愛してる、一度とて
おれを憎んだためしはない。
おれもおまえを愛してる。前世から
さだまっていたことのよう。
そして二人の魂は、不識《しらず》に温和に愛し合う
もう長年の習慣だ。
それなのにまた二人には、
ひどく浮気な心があって、
いちばん自然な愛の気持を、
時にうるさく思うのだ。
――というはじまりの5連あたりまではおおよそ当てはまりそうではないですか?
◇
佳(よ)い香水のかおりより、
病院の、あわい匂いに慕いよる。
そこでいちばん親しい二人が、
時にいちばん憎みあう。
――というあたりに、「愛の不可能性」や「愛の不毛」を感じられるなら
この詩の現代性(コンテンポラリーな側面)を読み取ることもできませんか?
◇
突飛ついでにもう一つを言ってしまえば
「あばずれ女の亭主が歌った」は
ラップやヒップホップのリズムに合わせて歌うと
とても分かりやすい叙情が見えてきませんか?
◇
おまえはおれを愛してる、一度とて
おれを憎んだためしはない。
――を
♪おまえはおれを=7
♪愛してる=5
♪一度とて=5
♪おれを憎んだ=7
♪ためしはない=6
――と拍子を取ればいかにもラップ。
75調でありながら
破調を自然に駆使していますから
そこをラップの唱法でフォローして歌うとピタリとくるはずです。
以下も同様に、
♪おれもおまえを
♪愛してる。
♪前世から
♪さだまっていた
♪ことのよう。
♪そして二人の
♪魂は、
♪不識《しらず》に温和に
♪愛し合う
♪もう長年の
♪習慣だ。
♪それなのにまた
♪二人には、
♪ひどく浮気な
♪心があって、
♪いちばん自然な
♪愛の気持を、
♪時にうるさく
♪思うのだ。
(つづく)
*
あばずれ女の亭主が歌つた
おまへはおれを愛してる、一度とて
おれを憎んだためしはない。
おれもおまへを愛してる。前世から
さだまつてゐたことのやう。
そして二人の魂は、不識《しらず》に温和に愛し合ふ
もう長年の習慣だ。
それなのにまた二人には、
ひどく浮気な心があつて、
いちばん自然な愛の気持を、
時にうるさく思ふのだ。
佳い香水のかほりより、
病院の、あはい匂ひに慕ひよる。
そこでいちばん親しい二人が、
時にいちばん憎みあふ。
そしてあとでは得態(えたい)の知れない
悔の気持に浸るのだ。
あゝ、二人には浮気があつて、
それが真実《ほんと》を見えなくしちまう。
佳い香水のかほりより、
病院の、あはい匂ひに慕いよる。
※「新編中原中也全集」より。《》内のルビは原作者本人によるもの、( )内は角川全集編集委員
によるものです。
◇
「新字・新かな」表記を以下に掲出しておきます。
*
あばずれ女の亭主が歌った
おまえはおれを愛してる、一度とて
おれを憎んだためしはない。
おれもおまえを愛してる。前世から
さだまっていたことのよう。
そして二人の魂は、不識《しらず》に温和に愛し合う
もう長年の習慣だ。
それなのにまた二人には、
ひどく浮気な心があって、
いちばん自然な愛の気持を、
時にうるさく思うのだ。
佳(よ)い香水のかおりより、
病院の、あわい匂いに慕いよる。
そこでいちばん親しい二人が、
時にいちばん憎みあう。
そしてあとでは得態(えたい)の知れない
悔の気持に浸るのだ。
ああ、二人には浮気があって、
それが真実《ほんと》を見えなくしちまう。
佳い香水のかおりより、
病院の、あわい匂いに慕いよる。
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