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2021年8月 6日 (金)

再掲載/2013年1月 5日 (土) 「永訣の秋」詩人のわかれ・「蛙声」1

「在りし日の歌」の最終詩「蛙声」は

昭和12年5月14日に作られ
同年の「四季」7月号に発表されました。
「四季」に発表されたとき
末尾に制作日の記載があります。

この頃、「在りし日の歌」の編集は急展開し
詩集タイトルを「在りし日の歌」とすることや
この「蛙声」を最終詩とし
「含羞(はじらい)」を詩集の冒頭詩とすることなど
詩集全体の構成が次々に
ほぼ同時的に決められたようです。
(新全集第1巻・詩Ⅰ解題篇)

「蛙声」は
詩集「在りし日の歌」の完成へ
スプリングボードの役割を果たしたようですが
その役割を果たすためには
内容やメッセージが重要であったことは
「山羊の歌」の最終詩「いのちの声」と同じような事情です。

6月、近衛内閣発足
7月、盧溝橋事件
8月、上海事変
12月、南京陥落
――といった時代でした。

「蛙声」を読む前に
この程度のことを知っておいても害にはならないことでしょう。

中原中也はこの年の4月29日に30歳になります。

詩が

天は地を蓋(おお)い、
そして、地には偶々(たまたま)池がある。

――とはじめられるは
幾分か時代のニュアンスを込めようとしたものでしょうか。

池が存在するのは
天があり地がありという
大宇宙の作りの中の
その厳然とした存在である地に
たまたま(偶然)一つの池があり
その偶然の存在である池に棲んでいる蛙が
一夜限りの命とばかりに今鳴いている
いったいあれは何を鳴いているのだろう
――と遠撮(遠景)と近撮(近景)の往復の中で
蛙の声をとらえます。

蛙の声そのものがとらえられるのではなく
とらえられても
天や地を背景にし
空から来て
空へ去っていく声としてしか聞こえてきません。

中原中也には
蛙をモチーフにした詩が幾つかありますが
それらは昭和5~8年に使われていた「ノート翻訳詩」に記されたものです。

「蛙声(郊外では)」
(蛙等は月を見ない)
(蛙等が、どんなに鳴こうと)
(Qu'est-ce que c'est?)
――の4作ですが
これらの詩も蛙そのものがとらえられているのではなく
風景(状況とか背景とか関係とか)の中の蛙です。

当たり前のことのようですが
蛙そのものの姿態などは
これっぽっちも歌われていないのです。

(つづく)

蛙 声
 
天は地を蓋(おお)ひ、
そして、地には偶々(たまたま)池がある。
その池で今夜一と夜(よ)さ蛙は鳴く……
――あれは、何を鳴いてるのであらう?

その声は、空より来り、
空へと去るのであらう?
天は地を蓋ひ、
そして蛙声(あせい)は水面に走る。

よし此の地方《くに》が湿潤に過ぎるとしても、
疲れたる我等が心のためには、
柱は猶、余りに乾いたものと感《おも》はれ、

頭は重く、肩は凝るのだ。
さて、それなのに夜が来れば蛙は鳴き、
その声は水面に走つて暗雲に迫る。

※「新編中原中也全集」より。《 》で示したルビは原作者本人、( )は全集委員会によるものです。

「新字・新かな」表記を以下に掲出しておきます。

蛙 声
 
天は地を蓋(おお)い、
そして、地には偶々(たまたま)池がある。
その池で今夜一と夜(よ)さ蛙は鳴く……
――あれは、何を鳴いてるのであろう?

その声は、空より来り、
空へと去るのであろう?
天は地を蓋い、
そして蛙声(あせい)は水面に走る。

よし此の地方《くに》が湿潤に過ぎるとしても、
疲れたる我等が心のためには、
柱は猶、余りに乾いたものと感《おも》われ、

頭は重く、肩は凝るのだ。
さて、それなのに夜が来れば蛙は鳴き、
その声は水面に走って暗雲に迫る。

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