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2021年8月 8日 (日)

再掲載/2013年1月10日 (木) 「永訣の秋」詩人のわかれ・「蛙声」6

(前回からつづく)

「くに」が湿潤(しつじゅん)に過ぎるといった時に
湿潤は天候のことを述べているのでないことは明白です。
日本海型気候とか瀬戸内型気候などでいう湿潤ではありません。

ではどのようなことを湿潤と言っているかといえば
何にも言っていません。

どうぞ自由勝手に想像してくださいと言っているようなのは
「在りし日の歌」をずーっと読んできた読者に
そんな説明は要らないでしょう
ちゃんと読んで来たのならわかるでしょうと言わんばかりな気配です。

ここをどうしても読み解かねば
この詩は読めませんから
なんとか読んでみますと……。

その「くに」には
「疲れたる我等」が存在して
詩人もその中の一人に違いありませんが
その我等の心に役立つ(ため)には
柱(国の政治とか法律とか)が現状あまりにも乾いている
あまりにもドライな(即物的な)動きを見せている
(ここは暗に軍部や軍隊を批判している!)と感じられるので

頭は重く、肩は凝るのだ。

第3連の末行は

柱は猶、余りに乾いたものと感《おも》はれ、

――と読点「、」で終わり第4連へと続いていきますが
これは定型(ソネット)を維持するためだけの空白のようで
そうではありません。
ここは連を終える必要があったから終えたのです。

ソネットのためにそうしたというより
感《おも》はれ、で連を終えて
ここで時間をおく必要があったので
「、」でぶっつりこの連を切り
第4連へ続けたところで
それがソネットにもなったのでそのままにしたということでしょう。

ここは詩人が熟考した結果です。

「くに」が湿潤であり
柱が乾いたものと感じられ
さらに最終行には
暗雲という言葉が使われます。

日本国の空模様が
暗雲に覆(おお)われていて
その暗雲に迫るのは蛙声です。

(つづく)

蛙 声
 
天は地を蓋(おお)ひ、
そして、地には偶々(たまたま)池がある。
その池で今夜一と夜(よ)さ蛙は鳴く……
――あれは、何を鳴いてるのであらう?

その声は、空より来り、
空へと去るのであらう?
天は地を蓋ひ、
そして蛙声(あせい)は水面に走る。

よし此の地方《くに》が湿潤に過ぎるとしても、
疲れたる我等が心のためには、
柱は猶、余りに乾いたものと感《おも》はれ、

頭は重く、肩は凝るのだ。
さて、それなのに夜が来れば蛙は鳴き、
その声は水面に走つて暗雲に迫る。

※「新編中原中也全集」より。《 》で示したルビは原作者本人、( )は全集委員会によるものです。

「新字・新かな」表記を以下に掲出しておきます。

蛙 声
 
天は地を蓋(おお)い、
そして、地には偶々(たまたま)池がある。
その池で今夜一と夜(よ)さ蛙は鳴く……
――あれは、何を鳴いてるのであろう?

その声は、空より来り、
空へと去るのであろう?
天は地を蓋い、
そして蛙声(あせい)は水面に走る。

よし此の地方《くに》が湿潤に過ぎるとしても、
疲れたる我等が心のためには、
柱は猶、余りに乾いたものと感《おも》われ、

頭は重く、肩は凝るのだ。
さて、それなのに夜が来れば蛙は鳴き、
その声は水面に走って暗雲に迫る。

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