茨木のり子厳選の恋愛詩・黒田三郎「ひとりの女に」補遺/5億円の詩
(前回からつづく)
茨木のり子が「詩のこころを読む」の「恋唄」の章で
詩行を引いて実際に取り上げた詩は――
みちでバッタリ 岡真史(ぼくは12歳)
十一月 安西均(花の店)
それは 黒田三郎(ひとりの女に)
賭け 黒田三郎(同)
僕はまるでちがって 黒田三郎(同)
君はかわいいと 安水稔和(愛について)
鳩 高橋睦郎(ミノ・あたしの雄牛)
葉月 阪田寛夫(わたしの動物園)
練習問題 阪田寛夫(サッちゃん)
顔 松下育男(肴)
海鳴り 高良留美子5(見えない地面の上で)
木 高良留美子(同)
男について 滝口雅子(鋼鉄の足)
秋の接吻 滝口雅子(窓ひらく)
ふゆのさくら 新川和江(比喩でなく)
助言 ラングストン・ヒューズ
――というラインアップです。
(※詩のタイトル、作者、詩集名の順。)
◇
黒田三郎の「ひとりの女に」にさしかかって
茨木のり子は突如「値段ごっこ」という
自身のひそかな楽しみを公開します。
詩に値段をつけたら
どれほどになるか、という遊びです。
◇
詩ほど値のつけにくいものはなく、
ゼロとも言えるし、
1篇1億円とも言えるもので、
現実に世間がつけてくれる値段は1万円くらい。
――と茨木のり子は前置きして、
なかば本気であるかのように
なかば遊び心であるかのように
(と読めるのですが)
その値段ごっこ(の値=あたい)を怪しむ意見があることをも付言して
たとえば、
果物店にレモンは50円で売っているけれど
「私のなかで5000円くらい」はするかしら。
高村光太郎の詩や梶井基次郎の小説に現れるレモンは
宝石なみに扱われているので
これは正確な感覚ね。
では、芭蕉の句はいくらになるか? と問えば
新聞の見出し、天気予報、日常会話にさえ
芭蕉の句はしのびこんでいるほどなのだから
計り知れない値がつくはずよ
――などといった意味の想像を繰り広げます。
(※このあたり、「詩のこころを読む」では、会話体で書かれているものではありません。編者。)
◇
結果、
「黒田三郎の詩ばかりでなくこの本で私が選んだ詩はすべて、1篇5億円くらいの値打ちあり」
――という値踏みを敢行します。
◇
そう言われればそうかな。
◇
こうして再び三度(みたび)
「詩のこころを読む」のページをめくり返すことになります。
◇
途中ですが
今回はここまで。
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