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カテゴリー「066中原中也・朝の詩の名作コレクション」の記事

2020年1月 2日 (木)

中原中也・朝の詩の名作30/春と恋人

春と恋人

 

美しい扉の親しさに

私が室(へや)で遊んでいる時、

私にかまわず実ってた

新しい桃があったのだ……

 

街の中から見える丘、

丘に建ってたオベリスク、

春には私に桂水くれた

丘に建ってたオベリスク……

蜆(しじみ)や鰯(いわし)を商(あきな)う路次の

びしょ濡れの土が歌っている時、

かの女は何処(どこ)かで笑っていたのだ

 

港の春の朝の空で

私がかの女の肩を揺ったら、

真鍮(しんちゅう)の、盥(たらい)のようであったのだ……

 

以来私は木綿の夜曲?

はでな処(とこ)には行きたかない……

 

(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新かなに変えてあります。)

 

 

 

 

2019年12月31日 (火)

中原中也・朝の詩の名作28/朝(雀の声が鳴きました)

 

雀の声が鳴きました

雨のあがった朝でした

お葱(ねぎ)が欲しいと思いました

 

ポンプの音がしていました

頭はからっぽでありました

何を悲しむのやら分りませんが、

心が泣いておりました

 

遠い遠い物音を

多分は汽車の汽笛(きてき)の音に

頼みをかけるよな心持

 

心が泣いておりました

寒い空に、油煙(ゆえん)まじりの

煙が吹かれているように

焼木杭(やけぼっくい)や霜(しも)のよう僕の心は泣いていた

 

                             (一九三四・四・二二)

 

(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新かなに変えてあります。)

 

 

 

 

2019年12月30日 (月)

中原中也・朝の詩の名作27/夜明け

夜明け

 

夜明けが来た。雀の声は生唾液(なまつばき)に似ていた。

水仙(すいせん)は雨に濡(ぬ)れていようか? 水滴を付けて耀(かがや)いていようか?

出て、それを見ようか? 人はまだ、誰も起きない。

鶏(にわとり)が、遠くの方で鳴いている。――あれは悲しいので鳴くのだろうか?

声を張上げて鳴いている。――井戸端(いどばた)はさぞや、睡気(ねむけ)にみちているであろう。

 

槽(おけ)は井戸蓋の上に、倒(さかし)まに置いてあるであろう。

御影石(みかげいし)の井戸側は、言問いたげであるだろう。

苔(こけ)は蔭(かげ)の方から、案外に明るい顔をしているだろう。

御影石は、雨に濡れて、顕心的(けんしんてき)であるだろう。

 

鶏(とり)の声がしている。遠くでしている。人のような声をしている。

 

おや、焚付(たきつけ)の音がしている。――起きたんだな――

新聞投込む音がする。牛乳車(ぐるま)の音がする。

《えー……今日はあれとあれとあれと……?………》

脣(くち)が力を持ってくる。おや、烏(からす)が鳴いて通る。

 

                       (一九三四・四・二二)

 

(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新かなに変えてあります。)

 

 


2019年12月29日 (日)

中原中也・朝の詩の名作26/朝(雀が鳴いている)

雀が鳴いている
朝日が照っている
私は椿(つばき)の葉を想う

雀が鳴いている
起きよという
だがそんなに直(す)ぐは起きられようか
私は潅木林(かんぼくばやし)の中を
走り廻(まわ)る夢をみていたんだ

恋人よ、親達に距(へだ)てられた私の恋人、
君はどう思うか……
僕は今でも君を懐しい、懐しいものに思う

雀が鳴いている
朝日が照っている
私は椿の葉を想う

雀が鳴いている
起きよという
だがそんなに直ぐは起きられようか
私は潅木林の中を
走り廻る夢をみていたんだ

(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新かなに変えてあります。)

 

2019年12月28日 (土)

中原中也・朝の詩の名作25/朝

 

かがやかしい朝よ、

紫の、物々の影よ、

つめたい、朝の空気よ、

灰色の、甍(いらか)よ、

水色の、空よ、

風よ!

 

なにか思い出せない……

大切な、こころのものよ、

底の方でか、遥(はる)か上方でか、

今も鳴る、失(な)くした笛よ、

その笛、短くはなる、

短く!

 

風よ!

水色の、空よ、

灰色の、甍よ、

つめたい、朝の空気よ、

かがやかしい朝

紫の、物々の影よ……

 

(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新かなに変えてあります。)

 

 

 

 

2019年12月26日 (木)

中原中也・朝の詩の名作23/(風が吹く、冷たい風は)

(風が吹く、冷たい風は)

       ▲

風が吹く、冷たい風は
窓の硝子(ガラス)に蒸気を凍りつかせ
それを透かせてぼんやりと
遠くの山が見えまする汽車の朝

僕の希望も悔恨も
もう此処(ここ)までは従(つ)いて来ぬ
僕は手ぶらで走りゆく
胸平板(むねへいばん)のうれしさよ

昨日は何をしたろうか日々何をしていたろうか
皆目僕は知りはせぬ
胸平板のうれしさよ

(汽車が小さな駅に着いて、散水車がチョコナンとあることは、
小倉(こくら)服の駅員が寒そうであることは、幻燈風景
七里結界に係累はないんだ)

(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新かなに変えてあります。)

 

2019年12月25日 (水)

中原中也・朝の詩の名作22/小 唄

小 唄

僕は知ってる煙(けむ)が立つ
 三原山には煙が立つ

行ってみたではないけれど
 雪降り積った朝(あした)には

寝床の中で呆然(ぼうぜん)と
 煙草くゆらせ僕思う

三原山には煙が立つ
 三原山には煙が立つ

                     (一九三三.二.一七)

(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新かなに変えてあります。)

 

2019年12月24日 (火)

中原中也・朝の詩の名作21/秋になる朝

秋になる朝

たったこの間まで、四時には明るくなったのが
五時になってもまだ暗い、秋来る頃の
あの頃のひきあけ方のかなしさよ。
ほのしらむ、稲穂にとんぼとびかよい
何事もなかったかのよう百姓は
朝露に湿った草鞋(わらじ)踏みしめて。

僕達はまだ睡(ねむ)い、睡気で頭がフラフラだ、それなのに
涼風は、おまえの瞳をまばたかせ、あの頃の涼風は
とうもろこしの葉やおまえの指股に浮かぶ汗の味がする
やがて工場の煙突は、朝空に、ばらの煙をあげるのだ。

恋人よ、あの頃の朝の涼風は、
とうもろこしの葉やおまえの指股に浮かぶ汗の匂いがする
そうして僕は思うのだ、希望は去った、……忍従(にんじゅう)が残る。
忍従が残る、忍従が残ると。

(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新かなに変えてあります。)

 

2019年12月23日 (月)

中原中也・朝の詩の名作20/幻 想

幻 想

何時(いつ)かまた郵便屋は来るでしょう。
街の蔭った、秋の日でしょう、

あなたはその手紙を読むでしょう
肩掛をかけて、読むでしょう

窓の外を通る未亡人達は、
あなたに不思議に見えるでしょう。

その女達に比べれば、
あなた自身はよっぽど幸福に思えるでしょう。

そして喜んで、あなたはあなたの悩みを悩むでしょう
人々はそのあなたを、すがすがしくは思うでしょう

けれどもそれにしても、あなたの傍(そば)の卓子(テーブル)の上にある
手套(てぶくろ)はその時、どんなに蒼ざめているでしょう

乳母車を輓(ひ)け、
紙製の風車を附(つ)けろ、
郊外に出ろ、
墓参りをしろ。

ブルターニュの町で、
秋のとある日、
窓硝子(まどガラス)はみんな割れた。

石畳(いしだたみ)は、乙女の目の底に
忘れた過去を偲(しの)んでいた、
ブルターニュの町に辞書はなかった。

市場通いの手籠(てかご)が唄う
夕(ゆうべ)の日蔭の中にして、
歯槽膿漏(しそうのうろう)たのもしや、
 女はみんな瓜(うり)だなも。

瓜は腐りが早かろう、
そんなものならわしゃ嫌い、
歯槽膿漏さながらに
 女はみんな瓜だなも。

雨降れ、
瓜の肌には冷たかろ。
空が曇って町曇り、
歴史が逆転はじめるだろ。

祖父(じい)さん祖母(ばあ)さんいた頃の、
影象レコード廻るだろ
肌は冷たく、目は大きく
相寄る魂いじらしく

オルガンのようになれよかし
愛嬌なんかはもうたくさん
胸掻き乱さず生きよかし
雨降れ、雨降れ、しめやかに。

昨日は雨でしたが今日は晴れました。
女はばかに気取っていました。
  昨日悄気(しょげ)たの取返しに。

罪のないことです、
さも強そうに、産業館に這入(はい)ってゆきます、
  要らない品物一つ買うために。

僕は輪廻ししようと思ったのだが、
輪は僕が突き出す前に駆け出しました。
  好いお天気の朝でした。

(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新かなに変えてあります。)

 

2019年12月22日 (日)

中原中也・朝の詩の名作19/死別の翌日

死別の翌日

生きのこるものはずうずうしく、
死にゆくものはその清純さを漂(ただよ)わせ
物云いたげな瞳を床にさまよわすだけで、
親を離れ、兄弟を離れ、
最初から独りであったもののように死んでゆく。

さて、今日は良いお天気です。
街の片側は翳(かげ)り、片側は日射しをうけて、あったかい
けざやかにもわびしい秋の午前です。
空は昨日までの雨に拭(ぬぐ)われて、すがすがしく、
それは海の方まで続いていることが分ります。

その空をみながら、また街の中をみながら、
歩いてゆく私はもはや此(こ)の世のことを考えず、
さりとて死んでいったもののことも考えてはいないのです。
みたばかりの死に茫然(ぼうぜん)として、
卑怯(ひきょう)にも似た感情を抱いて私は歩いていたと告白せねばなりません。

(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新かなに変えてあります。)

 

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